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bloody’s diary

☆血反吐を吐きつつ書くブログ☆

「子どもたちは森に消えた」読んだ

読書

マーダーケースブックを知ってますか?

私が幼いころにディアゴスティーニが創刊した世界の殺人事件を集めた週刊誌です。

当時猟奇的な連続殺人事件の犯人像をプロファイルするFBI心理捜査官モノが流行っていました。

私もたやすくその流れに乗って、将来は犯罪心理学者になりたいと思ってたし、お手伝いしてお小遣いを貯め、マーダーケースブックを何冊か買ってました。

その頃の私にとっての連続猟奇殺人事件とは、ホラーファンタジーのように日常から遠く遠く離れたところで起こる現実離れしたもので、おどろおどろしい怪談を聞くようなスリルに魅力を感じていました。

だからその気持のまま「チャイルド44」を読んだ流れで、実在の事件を取材したこの本に手を出したのです。

bloody.hatenablog.com

子供たちは森に消えた (ハヤカワ文庫NF)

子供たちは森に消えた (ハヤカワ文庫NF)

 

 

 

 

事件はあまりにも有名で、犯人であるアンドレイ・チカチーロの名前を検索すれば事故の詳細について知ることが出来ます。

アンドレイ・チカチーロ - Wikipediaにも詳しく記述してあります。

 

私は怖いもの見たさで本を読み始めましたが、事件の背景に現代日本にも通じる問題点が複数あったことに驚きました。

 

まずはチカチーロの先天性の障害が見過ごされたこと。

彼は胎児の頃の脳に障害を負ったらしく、その影響で成長しても夜尿症が治らず、そのせいで実母から虐待に近い叱責を受けており、それが人格形成に大きな影響を与えたのではないかと言われています。

また脳の障害のせいで性的不能でもあり、そのことで彼は大きなコンプレックスと屈辱感を抱いていたようです。

 

そして当時のロシアの保守的な価値観のせいで性教育がほとんどなされていなかったこと。

 このせいでチカチーロ本人が、内臓や血、相手が残酷で暴力的な仕打ちを受けて苦しむ姿を見ないと勃起できないことは異常であり治療すべき状態であるということに気づけなかったのもありますし、子どもに性欲を向ける大人がいるはずがないという人々の思い込みで保護者は被害者になる子どもたちに「見知らぬ人についていかないように」と注意喚起をすることもありませんでした。

 

また、犯人がきちんとした正職についていて、当時多かった酒飲みで酔っ払って暴力をふるうような男性ではなく、酒は飲まず物静かで身なりもきちんとしており、周りの人からある程度の信頼をされていたのも大きいようです。

彼は殺人を犯す前に子ども相手に数件の猥褻や性的虐待の事件を起こしていますが、周りの大人たちが子どもの訴えを信じずに取り合わなかったり、勤め先が不祥事が公になるのを恐れて事件を警察に届けること無く彼の解雇のみで済ませていました。

彼はこのわいせつ事件も発覚したら自分の人生が終わるかもしれないと大きな恐れを抱きながら実行したようですが、結局それほどの大事件にはならず、勤め先もすぐに次が見つかったことが彼の心理的なブレーキを外し、犯行をエスカレートさせたと書いてありました。

 

被害者になった女性や子どもは、孤児や障害者、「反社会的生生活」を送っていた女性(貧困のため売春で稼いでいた)が多く、例え疾走しても殺されても誰も省みることのない人々が多かったそうです。

チカチーロは自分より劣って堕落した生活を送っていると思い込んだ彼ら彼女らが、自分が決してできないセックスをごく簡単に手に入れられることについて激しい憤りを感じていたといいます。

 

そして捜査にかこつけて当時の社会において好ましからざる属性を持った人々、同性愛者や障害者への弾圧が加えられたのには胸がしめつけられました。

社会に役に立たないと偏見を持たれているような人たちは状況が悪くなると、たやすく暴力が向かいます。

 

先日放送されたNHKスペシャル「きのこ雲の下で何が起きていたのか」では原爆投下後数時間して軍の救援部隊がやってきたが、兵隊にできる若い男性以外の女性や子どもの救援は後回しにし、トラックに乗り込もうとしていた少女には恐ろしいほど怒鳴って追い払ったというエピソードが紹介されていました。

徹底的に今、戦争に役に立つ人間以外は見捨てるような異常な状態でした。

 

この事件についてのマイノリティへの弾圧は事件も国も違う遠いことだとはとても思えませんでした。

平時に差別を放置していると非常時には命にかかわる弾圧になる。

 

またこの本ではこの事件を解決に導いた捜査官たちのバックグラウンドも掘り下げてあり、大変面白かったです。